「今さらこんなことを聞くのは恥ずかしいのですが……」と、
先日、レッスン中にある質問をされました。
それは、
rit.(リタルダンド)とrall.(ラレンタンド)とriten.(リテヌート)の違い。
どれも「r」で始まって、
見た目だけでもまぎらわしいですね。
「テンポを落とす」ということはわかっているけれど
この3つがどう違うのかがよくわからず
ずっと、もやもやしていたとのこと。
そう言われてみれば、特にリタルダンドとラレンタンドの場合、
辞書でも「だんだん遅くしていく」と、
まったく同じ文言で説明されているので
「では、作曲家はどうやってこの2つの単語を使い分けているの?」と
不思議に思いますよね。
このような時に役に立つのが、
音楽用語としてではなく、
日常生活のなかのイタリア語本来の意味から
そのニュアンスを説明してくれているこちらの本。
(ひと目で納得!音楽用語事典:全音楽譜出版社)
この事典の解説によると、
リタルダンドは「時間的に遅れる感覚」。
たとえば、事故で列車が遅れる、寝坊して学校に遅刻する、など
予定されていた時間よりも”遅れる状況”を表現するときに使うそうです。
一方、ラレンタンドは「速度が段階的に遅くなる感覚」。
電車のダイヤが乱れて遅れて運行している場合は《リタルダンド》を、
電車が停車するために徐々にスピードを落とすのは《ラレンタンド》を
使うとのこと。
どちらも遅くなることには変わりありませんが、
確かに、これを知っていると表現のニュアンスが変わってくるかもしれません。
同じく「r」から始まることから混同しがちな 「リテヌート(ritenuto)」。
音楽用語としての訳は「急に速度をゆるめる」ですが、
イタリア語本来の意味は、”自制した”、”思慮分別がある”という意味をもち、
「気持ちを抑える」「慎重に動く」といった感覚があるそうです。
"自制"や"慎重"という言葉には、
重心が後ろのほうにかかって、前にすすみにくいニュアンスがあります。
楽譜にリテヌートが書かれていたときに、
単にテンポを落とすのではなく
重さがかかって前に進みにくくなるので、
自然に速度が落ちる、といった感覚をイメージすると
しっくりと弾きやすくなる場面があるかもしれません。
いずれにしても、この本でもアドバイスされているように
速度の変化は曲全体のイメージから捉えることが大切です。
なぜそこでテンポの変化が求められているのかを考え
何度もいろいろ試してみて
心地よく、不自然に聞こえない流れで弾くことを
心がけてみてください。