横浜市青葉区大人のピアノ教室 あおばピアノの部屋ブログ

ペダルは耳で踏む

「譜読みは丁寧に!」「楽譜をよく見てください!」といつもお願いするので、教室の皆さんはとても注意深く楽譜を見て練習してきてくださるのですが、ペダルに関してだけは「そんなに真面目に楽譜どおりに守らなくてもいいです。」と言うことがよくあります。

ペダル記号は、作曲者本人が書いたものではない場合も多々ありますし、仮に作曲者が書いたものであったとしても、その時代のピアノと今のピアノとは響き方が違うということもあります。
出版社によっても違ったり、テンポや音量など演奏者の弾き方によっても効果的なペダルの踏み方は違ってくるので、楽譜のとおりに踏むのが必ずしもベストとは限りません。

「ペダルは耳で踏みなさい!」と、学生時代によく先生から言われました。

もちろん、実際に耳でペダルを踏むわけではなく、楽譜どおりに機械的にペダルを踏んだり上げたりするのではなく、『音楽が美しく聞こえるように、自分の音をよく聞きながら踏みなさい』という意味です。

頭ではわかっていても、楽譜に書かれたペダル記号を見ると、ついつい自然に足がそれに合わせて動いてしまうもの。
特にこの「はなす(足を上げる)」記号を見た時は注意が必要です。

ペダルをはなす記号

この記号を見ると、反射的に勢いよく足を上げてしまう人が多いので、レッスンでは時々この記号に×を書いたり黒塗りして消してしまうことがあります。

たとえばこの曲。
ショパンのノクターン2番の楽譜ですが、忠実にこのとおり「はなす」記号のところでペダルを上げると、黄色で示した部分は左手が次の音へ向かって飛んでいる最中なので、伴奏がブツ切りに聞こえて、dolce=優雅な演奏にはなりません。

ショパン夜想曲譜

 

同じ曲でも出版社によっては、ペダルをはなす記号が書かれていないこのような楽譜もあります。

ショパン夜想曲2

ペダルを踏む回数は最初の楽譜と同じですが、「はなす」動きが示されていない分、「踏む」ことのほうへ意識がいき、足がバタバタ動く印象が薄れるのではないでしょうか。

こちらの楽譜のペダル記号だと、音を「弾いた後」に上げ下げするレガートペダルになるので、伴奏もメロディーも切れ目なくなめらかに聞こえます。

ただ、だからと言って「はなす」記号が書かれた最初の楽譜が悪い楽譜というわけではありませんし、ブツ切れの伴奏を弾かせるためにこのようなペダル記号にしているわけでもありません。

実際、ショパンコンクールで推奨しているエキエル版でも「はなす」記号が書かれていますし、この曲に関してはこちらのペダル表記をしている楽譜のほうが多いと思います。

このように、ペダル記号は見たままのタイミングで踏んだからといって必ずしも良い演奏になるわけではないので、参考にはすべきですが、忠実に従う必要はありません。

結局、頼るべきは記号ではなく「自分の耳」⇒「ペダルは耳で踏む」ということになるのですが、これにはある程度経験が必要ですし、自分で判断するのはなかなか難しいところです。

とりあえず、まずは楽譜どおりにペダルを踏んでみて「なんだかおかしい」と感じたり、良いのか悪いのかわからないなど不安なときは、レッスンで確認するまでペダルは踏まずに練習して頂くのがベストです。

手と足の動きは連動して体に記憶されるので、間違った踏み方をしていて、あとで足の動きだけを修正しようと思っても、手もつられて動きがへんになり弾けなくなってしまったりと、思わぬ苦労をすることになります。

最初から、正しいタイミングで踏む習慣をつけるのが一番です。

ペダルは、演奏の雰囲気をぐっと格上げしてくれる魅力的なツールですが、使いかたを間違えると演奏の足を引っ張る厄介なツールにもなり得ます。

踏みたくなる気持ちはよくわかるのですが、譜読みの段階からペダルを踏んで練習したりせず、ある程度足の動きを意識しながら弾く余裕、聞く余裕ができるまで待ってから使い始めるのが、美しく上手に弾けるようになる一番の近道です。